
【司法書士が解説】認知症による資産凍結を防ぐ!夫婦で始める「家族信託」の賢い活用法|解決事例

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日本は世界でも有数の長寿社会を迎え、人生100年時代と呼ばれるようになりました。ご夫婦がともに健康で長生きできることは大変喜ばしいことですが、その一方で直視しなければならない現実があります。それが「認知症」のリスクです。厚生労働省の推計などによれば、将来的には高齢者の高い割合で認知症を発症する可能性があると言われており、もはや誰にとっても他人事ではありません。
認知症を発症し、症状が進行してしまうと、ご自身の財産を自らの意思で管理・処分することができなくなってしまいます。この状態に陥ったとき、ご夫婦やご家族の生活を脅かす最も恐ろしい問題が「資産凍結(口座凍結)」です。
本コラムでは、認知症による資産凍結がどのようなメカニズムで起こるのか、そしてご夫婦の大切な財産を守るための最善の予防策である「家族信託」について、相続と財産管理の専門家である司法書士が詳しく解説いたします。
実際の解決事例も交えながら、わかりやすくお伝えしますので、将来への備えを検討されている方はぜひ参考にしてください。
認知症による資産凍結とは?夫婦の将来に潜むリスク
認知症による資産凍結とは、具体的にどのような事態を指すのでしょうか?
私たちが普段当たり前のように行っている預貯金の引き出しや、不動産の売買、賃貸借契約の締結などは、すべて法律上の「契約」や「法律行為」に該当します。そして、これらの契約を有効に行うためには、自らの行為の結果を正常に判断できる能力、すなわち「意思能力」が法的に求められます。
認知症が進行し、この意思能力がないとみなされてしまうと、本人が単独で行った契約は無効となってしまいます。金融機関は、預金者の大切な財産を不当な引き出しや特殊詐欺などの被害から守る義務があります。そのため、窓口でのやり取りなどで口座名義人が重度の認知症であり判断能力が低下していると金融機関側が認識した場合、その預金口座をただちに凍結する措置をとります。これが「口座凍結」と呼ばれる現象です。
一度口座が凍結されると、たとえ長年連れ添った配偶者や実の子供であっても、本人の代わりにお金を引き出すことは原則としてできなくなります。日々の生活費はもちろんのこと、本人のための医療費や、将来必要となる「介護費用」、さらには老人ホームなどの「施設入居費」を支払うためのまとまった資金でさえ、引き出すことが極めて困難になってしまうのです。
また、凍結されるのは「預貯金」だけではありません。「不動産」も同様に凍結状態に陥ります。たとえば、ご夫婦で暮らしているご自宅の維持管理が難しくなり、売却してご夫婦の施設入居費に充てようと考えたとします。
しかし、名義人であるご夫婦の一方、あるいは双方が認知症になって意思能力を喪失していると、不動産の売買契約を結ぶことができません。建物の老朽化に伴う大規模な修繕契約や、空き家になった自宅を第三者に貸し出す賃貸借契約も結べず、不動産という大きな資産が完全に身動きの取れない「塩漬け」の状態になってしまうのです。
資産凍結が引き起こす深刻なトラブルとご家族への負担

資産凍結が実際に起こってしまうと、ご夫婦やご家族の生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
たとえば、夫名義の預貯金で夫婦の生活費を賄っていたご家庭で、夫が重度の認知症を発症してしまったケースを想像してみてください。
夫の口座が凍結されると、妻は生活費を引き出すことができなくなります。夫の介護費用や施設入居費も支払わなければならないのに、夫の預金が使えないため、妻は自分のなけなしの貯金を切り崩して支払いを立て替えることになりかねません。結果として、健康な配偶者の生活まで困窮してしまう「老後破産」のリスクが高まるのです。
「夫婦なのだから、妻が代わりに手続きできるだろう」「子供が代理で銀行に行けば済むはずだ」と誤解されている方は非常に多いのが実情です。しかし、日本の法律や金融機関の実務においては、名義人本人の厳格な意思確認が求められるため、家族であっても勝手に財産を動かすことは許されません。
このように、認知症による資産凍結は、ご家族の精神的・経済的な負担を急激に増大させる非常に深刻な問題です。だからこそ、ご夫婦がともに元気で判断能力がしっかりしているうちに、将来を見据えた「財産管理」の仕組みを整えておくことが不可欠となります。
認知症対策の切り札「家族信託」の仕組みとメリット
認知症による資産凍結を防ぐための最も有効な生前対策として、近年急速に注目を集めているのが「家族信託」です。家族信託とは、一言で言えば「信頼できる家族に自分の財産の管理や処分を任せる法的な仕組み」のことです。
家族信託には、主に3つの立場(役割)が登場します。
1つ目は「委託者(いたくしゃ)」です。これは、ご自身の財産を預け、管理を任せる人のことです。
2つ目は「受託者(じゅたくしゃ)」です。委託者から財産を託され、目的に従って実際に財産の管理や運用、処分を行う人のことです(例:信頼できる子供など)。
3つ目は「受益者(じゅえきしゃ)」です。受託者が管理・運用する財産から生じる利益(預金の引き出しや不動産の賃料など)を受け取る人のことです。
家族信託の最大の特徴は、財産の「名義(管理・処分する権限)」と「利益を受け取る権利(受益権)」を切り離すことができる点にあります。
たとえば、父親(委託者)が、長男(受託者)に実家の不動産とまとまった預貯金を託し、その財産から生活費などの利益を受け取る人を父親自身(受益者)とする信託契約を結びます。この場合、財産を管理する権限は長男に移りますが、財産の経済的な価値や利益は引き続き父親のものですので、贈与税などはかかりません。
この仕組みを利用することで、万が一、父親(委託者=受益者)が認知症になって判断能力を喪失したとしても、財産を管理する権限はすでに長男(受託者)に移っているため、資産凍結を回避することができます。長男は父親の介護費用や施設入居費が必要になった際、自らの権限で信託された預貯金を引き出したり、実家を売却して資金を捻出したりすることが、滞りなく合法的に行えるのです。
夫婦の財産を守る「受益者連続信託」の絶大な効果
家族信託は、ご夫婦の財産を守るうえでも非常に強力なツールとなります。特にご夫婦にお勧めしたいのが「受益者連続信託」という仕組みです。
一般的な財産管理では、夫婦の一方が亡くなった後、その財産は「相続」によって配偶者や子供たちに引き継がれます。しかし、もし残された配偶者がすでに認知症を発症していたらどうなるでしょうか。相続の手続き(遺産分割協議など)自体が、認知症による判断能力の欠如を理由に進められなくなってしまうリスクがあります。
そこで活躍するのが「受益者連続信託」です。これは、最初の受益者が亡くなった後、次の受益者をあらかじめ指定しておくことができる仕組みです。
たとえば、「夫」の財産を「長男」に託す家族信託を組みます。最初の受益者を「夫」にしておき、信託契約の中で「夫が亡くなった後は、妻を第二の受益者とする」と定めておくのです。
こうすることで、夫が元気なうちは夫のために長男が財産を管理し、夫が亡くなった後は、一切の複雑な相続手続きを経ることなく、そのまま長男が「妻のため」に財産管理を継続してくれます。妻が認知症であったとしても、長男が受託者として妻の生活費や施設入居費を適切に支払い続けることができるため、残された配偶者の生活を生涯にわたって確実に保障することが可能になります。
他の制度との徹底比較:成年後見制度・遺言書との違い

認知症対策や財産管理の制度としては、家族信託のほかに「成年後見制度」や「遺言書」を思い浮かべる方も多いでしょう。それぞれの制度には明確な違いがあり、目的によって使い分けることが重要です。
成年後見制度(法定後見)との違い
成年後見制度のうち、すでに認知症が進行した後に利用できるのが「法定後見」です。
法定後見は「家庭裁判所」に申し立てを行い、裁判所が選んだ後見人が本人の財産を管理する制度です。 法定後見は本人の財産を「守る」ことに特化しているため、裁判所の厳格な監督下に置かれます。
そのため、家族の生活費のために本人の預金を使ったり、相続税対策としてアパートを建築したりするような柔軟な財産管理は一切認められません。また、親族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が後見人に選ばれるケースが多く、その場合は本人が亡くなるまで毎月数万円の報酬を支払い続けなければなりません。
一方、家族信託であれば、家庭裁判所の関与を受けることなく、家族同士で決めた信託契約の内容に従って、受託者(子供など)が柔軟かつ迅速に財産を管理・活用することができます。
遺言書との違い
「遺言」は、自分が亡くなった後の財産の分け方を指定するための非常に重要な制度です。
しかし、遺言書の効力が発生するのは、あくまで「本人が死亡した時」からです。 つまり、本人が生きている間に認知症を発症してしまった場合、遺言書は何の役にも立ちません。生前の認知症による資産凍結リスクを防ぐためには、遺言書だけでは不十分なのです。
そのため、生きている間の財産管理や認知症対策は「家族信託」で行い、信託財産以外の財産(日常的に使う少額の預貯金など)の死後の行き先については「遺言書」で定めておくという、2つの制度の「組み合わせ」が最も安心できる完全な対策と言えます。
【解決事例】ご夫婦で将来の不安を解消した家族信託の活用法

ここで、当事務所に実際に寄せられたご相談の中から、ご夫婦で家族信託を活用し、将来の不安を解決した事例をご紹介します。
【ご相談の状況】
ご相談にいらしたのは、ともに健康で、海外旅行を楽しまれるほど活動的なご夫婦でした。
しかし、お二人とも年齢を重ねるにつれ、「もし将来、どちらかが認知症になったら、自宅の管理や固定資産税の支払いはどうなるのだろうか」という漠然とした不安を抱えるようになりました。ご夫婦は早い段階で、自分たちの財産管理を信頼できる長男に任せたいと考え、家族信託について調べて当事務所へご相談に来られました。
【司法書士の提案とお手伝い】
お話を丁寧に伺い、当事務所からは以下のご提案をいたしました。
まず、ご自宅の不動産と、将来の生活費や施設費として想定されるまとまった金銭を長男に託す「家族信託契約」です。
「元気なうちは、自分たちで自由に現金を使いたい」というご夫婦の強いご意向を尊重し、最初は信託する金銭を少額にとどめる設計にしました。そして、将来体調に不安を感じたときに、いつでも追加でお金を信託口座に移せるような「柔軟な設計」をご提案しました。
また、ご自宅の不動産はご夫婦の「共有名義」となっていました。そこで前述の「受益者連続信託」の仕組みを取り入れました。これにより、将来ご夫婦の一方が亡くなっても、残された配偶者が安心してご自宅に住み続けられる環境を整えるとともに、認知症になっても長男が確実に不動産の管理や売却手続きを行えるようにしました。
さらに、信託契約に入れない日常用の口座などの財産について、将来の相続時にご家族間で揉め事が発生しないよう、ご夫婦それぞれで「遺言書」を作成することも併せてご提案しました。
【結果】
ご家族全員での話し合いを経て、無事に「家族信託契約書」を公正証書で作成し、併せて「自筆証書遺言」を作成しました。遺言書については、紛失や改ざんのリスクがない「法務局の保管制度」を利用するための申請手続きもお手伝いしました。 ご自宅の不動産については、名義を長男(受託者)に変更する「信託登記」を法務局で行い、信託した金銭を安全に管理するための「信託専用口座」の開設もサポートいたしました。
これにより、将来の認知症による資産凍結の不安は完全に解消され、ご夫婦はこれまで以上に安心して日々の生活やご旅行を楽しまれています。
家族信託を始める際の注意点と手続きの流れ
家族信託は非常に優れた制度ですが、利用するにあたって絶対に知っておかなければならない注意点があります。
それは、「家族信託の契約は、本人に十分な判断能力(意思能力)があるうちでなければ結べない」ということです。認知症が進行し、契約の内容を理解できなくなってからでは、家族信託を利用することはできません。その場合は、前述した不自由な「法定後見」を利用するしか道がなくなってしまいます。「まだ元気だから大丈夫」と思っている今こそが、家族信託の準備を始める最適なタイミングなのです。
また、家族信託契約の締結は、後々の親族間のトラブル(言った、言わないの争いなど)を防ぐために、公証役場で「公正証書」にして作成することが実務上強く推奨されます。さらに、不動産を信託する場合は法務局での信託登記手続きが必要不可欠です。
一般的な手続きの流れとしては、以下のようになります。
・専門家への無料相談・課題の整理
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・ご家族での会議・方針の決定
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・家族信託契約書の設計・文案作成
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・公証役場での公正証書の作成(契約締結)
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・金融機関での信託専用口座の開設
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・法務局での不動産の信託登記
これらの手続きは法律や税務の専門的な知識が複雑に絡み合うため、ご自身だけで進めることは非常に困難です。必ず、家族信託や相続に精通した司法書士などの専門家のサポートを受けながら進めるようにしてください。
まとめ:ご夫婦が元気な今だからこそできる備えを
認知症による資産凍結は、ある日突然やってきます。ご夫婦のどちらかが判断能力を失ってしまった瞬間、それまで当たり前のように使えていた預貯金や不動産が一切動かせなくなり、ご家族の生活に計り知れない負担と苦労を強いることになります。
しかし、お二人が元気な今であれば、「家族信託」という強力な解決策を使って、ご自身の希望通りに財産の管理を子供世代に託し、将来の不安を根本から取り除くことができます。ご自宅をどうしたいか、将来の介護費用をどう捻出するか、そして残された配偶者の生活をどう守るか。ご夫婦の想いを叶えるオーダーメイドの財産管理ができるのが家族信託の最大の魅力です。
相続手続きや生前対策は複雑で、「何から始めればいいかわからない」「うちの家族の場合はどの制度が合っているのだろうか」とご不安に思われる方も多いことと存じます。 当事務所では、専門家がお客様のお話を丁寧に伺い、ご家庭の状況に合わせた最適なプランをご提案しております。強引な勧誘等は一切ございませんので、将来の財産管理や認知症対策について少しでも気になることがございましたら、お一人で悩まずに、まずは当事務所の無料相談までお気軽にご連絡ください。ご夫婦の安心できる未来のために、専門家として全力でサポートさせていただきます。
この記事の執筆者
- 司法書士佐伯啓輔事務所 代表司法書士 佐伯啓輔
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保有資格 司法書士、民事信託士 専門分野 相続、遺言、生前対策 経歴 司法書士佐伯啓輔事務所代表。 平成24年4月、新横浜に「司法書士佐伯啓輔事務所」を開業。親身で解りやすい解説に定評があり、大手ハウスメーカーや企業福利厚生部門、会計事務所でのセミナー・相談会実績多数。相続発生前の『争いの予防』、相続発生後の『心理的負担の軽減』を様々な角度から提案し、相談者からの信頼も厚い。
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